王子様はパートタイム使い魔


 そんなことを尋ねられたのは初めてだ。ツヴァイはやけくそのように吐き捨てた。

「おまえとキスしたかったからだ」
「なんで?」

 ふてくされたように顔を背けたツヴァイに、リディは間髪入れずに畳みかける。思いも寄らない問いかけに、ツヴァイは呆れたようにリディを見つめた。

「おまえが好きだからに決まってるだろう」

 口にしてみて初めて納得した。リディの気持ちが気になるのも、リディが他の男に迫られているのが気に入らないのも、自分がリディを好きだからだ。
 そう考えると、成り行きでうっかり告白してしまったことが悔やまれる。なにしろ人の姿をしている時のツヴァイは、貴族のご令嬢から引く手数多で、告白されることがあっても心に響くことはなかった。自分から告白したのは初めてだ。
 記念すべき初めてが、呪いのせいで小さな黒猫の姿だというのも情けない。今は冗談で受け流してくれてもかまわないとすら思えた。いずれ人の姿に戻ったとき、改めて舞台を整えて告白しよう。
 ツヴァイが決意を新たにしていると、リディは盛大にため息を吐いた。やはり冗談だと思われたのだろうか?

「あなたの気持ちはわかったわ。でも、私の気持ちも考えてくれる? キスってお互いの気持ちが一致した上でするものじゃないの?」

 それを聞いてツヴァイはゆうべの不安にとらわれた。上目遣いに表情を窺いながらおずおずと問いかける。

「おまえはオレが嫌いなのか?」

 リディは表情を緩めてツヴァイの頭を撫でた。

「嫌いじゃないわ。猫のあなたは大好きよ。しっかり仕事をしてくれるし、お客さんの評判もいいし」
「猫のオレ? じゃあ、人のオレは……」

 若干不安を感じながら、ツヴァイは先を促す。リディはツヴァイの前でテーブルに腕をついてまっすぐに見つめた。ごくりと生唾を飲み込み審判が下されるのを待つ。リディは真顔で言い放った。

「嫌いじゃないわ。でもキスしたいと思えるほど好きでもないの。だってあなたのことよく知らないし、人の気持ちを考えない言動が多いし。貴族だから考える必要もないのかもしれないけど、そういうところは嫌いよ」
「う……」

 ぐぅの音も出ず、ツヴァイは絶句する。そして少しだけ挽回の言い訳をしてみた。

「それに関しては、仕事を通して人の気持ちを学べとグレーテに言われている。もう少し見守っていてくれないか?」

< 38 / 58 >

この作品をシェア

pagetop