王子様はパートタイム使い魔
3.困ったお祖父様
「じゃあ、また明日」
そう言ってユーリウスはリディの頬に軽く口づけた。密かに様子を窺ったが、リディは特に不快な様子は見せず少し微笑む。
「えぇ。また明日」
そんな風に普通の挨拶を返してユーリウスを見送った。
挨拶のキスなら大丈夫なようだ。たったそれだけのことでユーリウスは上機嫌になる。それがまた顔に出ていたらしく、迎えの馬車の中でディルクが目を細めながら尋ねた。
「なにか、よいことでもあったのですか? 殿下」
「あぁ、たいしたことではない」
努めて表情を引き締めながら、ユーリウスは適当にごまかす。ディルクはそれ以上追及することもなく、同じように表情を引き締めた。そしてユーリウスにとってはあまりおもしろくもないことを告げる。
「コルネリウス公爵がいらしてます。戻り次第顔を出すようにと陛下より仰せつかって参りました」
「そうか」
おそらく世継ぎは自分の血を引くローラントをと国王に推しに来たのだろう。これまでも度々やってきては国王に進言してきた。
現王妃アデーラの父であるコルネリウス公爵は、物心付いた頃からユーリウスにとっても祖父ではあったが、子どもの頃あまりかわいがってもらった記憶はない。なにしろローラントが生まれてからというもの、あからさまに扱いが違っていたからだ。
毎日留守にしていることを指摘されるような気はする。だが、そこはローラントがうまく立ち回ってくれるだろう。先にローラントと話ができればいいのだが、公爵は城に来たらローラントとアデーラ妃にべったりなのだ。付け入る隙を与えないように、自分で話を合わせていくしかないだろう。
先ほどとは打って変わって憂鬱な気分になる。大きくため息を吐いたところで馬車は城の門をくぐっていった。