王子様はパートタイム使い魔
夕食後、ユーリウスは自室で国民から寄せられた書状に目を通していた。そばではディルクが寄せられた書状や贈り物を慎重に開封して中身を改めている。
元々は改められた後の安全と判断されたものだけがユーリウスの元に届けられていたが、勝手に不要と判断されるのは不愉快なので、目の前で開封してもらうことにしたのだ。そのせいでディルクには危険が伴う仕事をさせて申し訳ないとは思っている。
そしてユーリウスの希望でディルクは書状の内容までは細かくチェックしたりしない。以前はふるい落とされていた手痛い意見なども届くようになってユーリウスは満足していた。
だが、ユーリウスの元に届く書状や贈り物の大半は有力貴族やそのご令嬢からの熱いラブレターだったりする。手痛いご意見を送ってくれた一般国民にこそ丁重な礼状を送りたいくらいなのに、有力貴族への返信で毎夜のように忙殺されるのがうんざりしていた。
最後の一通を改めて、ディルクがユーリウスの前に置いた。
「以上です、殿下」
「あぁ」
最後の一通は珍しく庶民からだった。封筒を裏返して送り主を見ると、ゼーゲンヴァルトの町長だった。毎朝顔を合わせる見知った相手に少し頬が緩む。息子は気に入らないが、町長は毎朝ツヴァイの頭をなでてチーズをひとかけらくれる気のいい奴だ。
内容に目を通そうとしたとき、扉がノックされた。ディルクが応対に出て告げる。
「ユーリウス殿下、ローラント殿下が少しお話がしたいと仰せです」
「通せ」
「かしこまりました」
頭を下げて入り口に向かったディルクは、ローラントを招き入れた後、自分は控えの間に下がった。
ローラントがユーリウスの向かう机の前に置かれた椅子に腰掛けた。それと同時に、控えの間からディルクが現れてふたりの王子の前に湯気の立つ茶の入ったカップを置く。そしてすぐにまた控えの間に下がった。
それを見届けてローラントが口を開く。
「兄上、お祖父様のことで、少し相談に乗っていただけますか?」
「なんだ? 食事の時にはいつも通りに猫かわいがりされただけだと言っていたではないか」
ユーリウスの言葉にいつもは氷の無表情を貫いているローラントが珍しく眉をひそめた。
「からかわないでください。あの場で話すのはちょっとはばかられたんです」
なにやら深刻な話のようだ。ユーリウスは手にした書状を一旦机の上に伏せて、ローラントを促した。
「聞こう」