王子様はパートタイム使い魔
ローラントはクスリと笑って言い放った。
「兄上、私からも言わせてください。人の気持ちを学んだ方がいいと思います」
「ぐっ……」
ユーリウスは顔を引きつらせて絶句する。これで三人目だ。これほど指摘されるということはそうなのかもしれないが、納得はできずに反論する。
「オレのどこが人の気持ちをわかっていないというんだ。貴族たちの気持ちは先読みしてうまくあしらっているつもりだが」
「そちらは大変よくできていると思います。ですが、兄上は恋心や親心など人の情に根ざす気持ちをわかっていらっしゃいません」
「オレが冷酷な人でなしだとでも言うのか」
「冷酷というより、淡泊というか、無関心というか。他人に興味を示していないのでしょう?」
「う……」
確かに他人はどうでもいいと思っている。ただひとりを除いては。
ツヴァイを褒めながら頭をなでるリディの笑顔が脳裏に浮かぶ。ユーリウスは自然に笑みを刻みながらポツリと反論した。
「いや、すごく興味を引かれる他人はいるぞ」
「ゼーゲンヴァルトの魔女殿ですか?」
間髪入れずに言い当てられて、ユーリウスは激しく動揺した。
「なんでわかるんだ!?」
「兄上はわかりやすいと申し上げたではないですか。魔女殿の話をするときの兄上は大変楽しそうです」
相手がめざといローラントとはいえ、こんなにあっさり見破られるのは何かと問題がある。本気でポーカーフェイスを学ばなければならないと思った。
だが、早い段階で城内に味方ができたのは幸いかもしれない。なにしろリディとの間には色々と障害があるのだ。
まず、自分自身はどうでもいいことだと思っているが周りが許さない身分の差。今まで庶民が王室に輿入れしたことはない。どうしてもとなったら、誰か有力貴族の養女となってもらうしかない。となるとその貴族に王室は恩を受けることになる。色々と根回しも必要となる。とにかく貴族が絡むと面倒くさい。
そして、その難関を乗り越えてリディがユーリウスの妻になったとしても、呪いのせいでユーリウスは日中黒猫になっている。魔女の使い魔をしなくなったら城外に出る言い訳がたたない。出かけていないのに姿が見えないとなると間違いなく騒ぎになるだろう。
だが一番の問題は、リディの気持ちがほとんどユーリウスに向いていないことだ。