王子様はパートタイム使い魔

4.使い魔猫組合



 耳を横に倒して、ツヴァイはリディをまじまじと見つめる。どう見ても庶民にしか見えない。そもそもリディは、貴族は別世界の人間のように言っていた。自分が貴族だと知らないのか。だとしたら、他人が知っているというのも妙な話だ。

 日課の配達から帰って、ツヴァイはずっとそんなことを考え続けていた。考えていても答は出てこないので直接本人に聞いてみようと思ったとき、リディが声をかけてきた。

「ツヴァイ、一緒にヒューゲルにいきましょう」
「へ?」

 見るとリディは厚手の帆布でできた大きな鞄を肩から斜めにかけている。いつもは店の前に出されている看板も室内にしまわれていた。
 ツヴァイは立ち上がってのそのそと寝床から出た。

「なんでだ?」
「魔女組合に定例報告。今回はあなたの登録とかあるから少し時間がかかると思うの。その間あなたは猫の組合を探してみたら?」
「わかった」

 どうやら猫組合の在処などはリディにはわからないようだ。
 鞄の口を広げてリディが促す。

「ほら、入って」
「あぁ」

 言われるままにツヴァイが鞄の中に入ると、リディは立ち上がり家を出た。
 家を出てツヴァイは鞄の縁から顔を出しあたりを眺める。入り口の少し先に荷馬車と見知った男がいて、リディに軽く手を上げた。
 リディは男に駆け寄り笑顔で挨拶する。

「ベッカーさん、ありがとうございます」
「いや、出荷のついでだから気にしなくていいぜ」

 にこにこと返事をしたベッカーは鞄の縁から顔を出したツヴァイに気付いて無遠慮にワシワシと頭をなでた。

「よぉ、久しぶりだな。まじめに働いてるそうじゃないか。関心関心」

 大きな手で頭をつかまれグリグリと揺さぶられ、頭がもげるんじゃないかと身の危険を感じたツヴァイはあわてて鞄の中に頭を引っ込めた。ベッカーは面白そうに豪快に笑う。

「わはは。じゃあ、行くか。荷台で悪いが乗ってくれ」
「はい」

 リディが鞄を抱えて荷台に後ろ向きに腰掛けて馬車が動き始めると、ツヴァイは再び鞄から顔を出した。町の門を抜けて石畳の街道を王都ヒューゲルに向けて幌のない荷馬車は軽やかに進んでいく。
 幌のない馬車に乗るのは初めてで、ツヴァイは身を乗り出してあたりを眺めた。


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