王子様はパートタイム使い魔
魔女組合の建物を出たツヴァイは建物の前にある通りを見回した。一頭立ての馬車が通れるかどうかという狭い路地は人の往来もまばらで閑散としている。
猫組合を探すにはまず猫を探さなければならない。猫のいそうなさらに狭い路地を目指してツヴァイは通りを横切った。
ツヴァイの入り込んだ路地は人がようやくすれ違えるくらいの幅しかない。その狭い路地の上に張り出した出窓には洗濯物が干してあったり町の人たちの生活の匂いがした。どこからか、肉を焼くおいしそうな匂いも漂ってくる。ツヴァイは鼻先を上向けてその匂いをくんくんと嗅いだ。見上げた先には路地を作る建物に遮られて、狭い青空が覗いている。ツヴァイは路地の先に視線を戻ししっぽをぴんと立ててゆっくりと歩き始めた。
ゆらゆらとしっぽの先を揺らしながら、猫を探してまわりを見渡す。猫になってすぐに城下町をうろついたときにはあまり町の様子を見ていなかった。なにしろ城を出て間もなく、町の人に悲鳴を上げられ追い回されたからだ。
改めて眺める城下町は、のどかなゼーゲンヴァルトとはまた違った庶民の生活が垣間見え、ツヴァイはなんだかわくわくしてきた。
ふと、建物の入り口にある石段の上でうずくまっている子猫を発見した。白地に顔の真ん中と手足の先、耳と長いしっぽが薄茶で少し毛足が長い。子猫が猫組合を知っているかは疑問だが、とりあえず話してみよう。ツヴァイがゆっくり近付くと、気付いた子猫が立ち上がり、全身を弓なりにして毛を逆立てながらシャーッと威嚇した。
「近付くな!」
子猫の剣幕に気圧されて、ツヴァイはその場で立ち止まる。そしてなるべく刺激しないように穏やかに話しかけた。
「驚かせてすまない。誰か大人の猫はいないか?」
ツヴァイが一歩近付く。しかし子猫はその場で飛び上がってさらに威嚇した。
「来るな、来るな、来るな!」
どうにも話ができそうにない。途方に暮れたツヴァイが小さくため息をもらしたとき、子猫の後ろにある木戸が薄く開いた。隙間に爪を引っかけて器用に扉を内側に引っ張りながら短毛の黒猫が顔を覗かせる。額には金の六芒星。おそらく魔女の使い魔だ。
黒猫は怪訝な表情で子猫に話しかけた。
「おい、チビ。なに騒いでんだ」
「ヤン兄たん。フシンな奴いる! フシンな奴!」
「不審な奴?」