王子様はパートタイム使い魔
なるほど、前任のレオンは有名らしい。ゼーゲンヴァルトは王都ヒューゲルから少し離れているのに、王都の猫に名前を知られているとは。ということは、ツヴァイの動向は他の猫たちに関心を持たれるということだ。いつまで猫の姿でいなければならないのかはわからないが、不評を買うことだけは避けるべきだろう。
第一印象は悪くないようなのでホッとする。そんなツヴァイの思惑をよそに、ヤンはテアに尋ねた。
「テア、おまえの他には誰も来てないのか?」
「えぇ。あたしだけよ。ちょっとヒマができたから来てみたけど、誰もいないから帰ろうと思ってたのよ」
「そうか。ベルタがいればよかったんだけどな」
ベルタ!? あのいけ好かない猫もいるのか。まぁ、あいつも使い魔だから使い魔猫組合に加入してても不思議ではないが。名前を聞いただけで不快感が顔に出ていたようだ。ヤンが不思議そうに問いかけた。
「なんだ? おまえベルタを知っているのか?」
「あ、あぁ、ちょっと会ったことがあって」
「ふーん。忙しいベルタがゼーゲンヴァルトの新人猫と知り合いだとは驚いた」
「たまたまグレーテの使いでうちの魔女に届け物をしにきたから……」
「あぁ、そういうことか」
ウソはついていない。ヤンも納得したようだしツヴァイはホッとする。いきなり出くわさなくてよかったと思う。ここにいるかもしれないことがわかっていれば少しは冷静に対応できるだろう。
しかしヤンの言葉が気になる。あいつがいればよかったってどういうことだ?
「ベルタってどういう奴なんだ?」
ツヴァイが遠回しに尋ねると、ヤンも遠回しに答えてくれた。
「知ってるかもしれないけど、あいつは王宮魔女グレーテの使い魔だ。王宮魔女ってのはすべての魔女たちを統括してるらしい。魔女の中では一番の権力者だ」
そんなことは知っている。若干イラッとしなから黙って先を促すツヴァイにヤンは驚愕の事実を告げた。
「そしてこの使い魔組合の創始者だ」