王子様はパートタイム使い魔
5、人の気持ちを考える
しばらく待っていたが、結局ベルタは姿を見せなかった。ツヴァイとしては別に会いたくもないが、構えていた分拍子抜けする。
元々昼間は他の猫たちも使い魔の仕事をしていることが多いので、あまり集会所に集まることはないらしい。
どれほど時間が経ったのか不明だが、当初の目的は達成したので、ツヴァイはヤンたちに別れを告げた。今度はぜひ夜に来てくれと言われたが、夜はまず人の姿に戻っている。曖昧に返事をして魔女組合の建物に戻った。
猫用の入り口から中に入ると、リディはソファに座って隣に座った老女と楽しげに話していた。草色のゆったりしたワンピースをまとった小柄な老女は耳の下あたりでそろえられた髪も真っ白で、かなりな高齢に見える。
ツヴァイに気付いたリディは笑顔で手招きした。ツヴァイは小走りに駆け寄ってリディのひざに飛び乗った。猫の時にはひざでゴロゴロできるのも特権だ。
横から老女が手を伸ばしてツヴァイの顎の下をこちょこちょする。慣れた手つきについつい釣られてツヴァイは目を細めて首を伸ばした。
「今度の子はずいぶん元気で若い子なのね」
「はい。運良く無印のこの子と出会えたので。ツヴァイといいます」
「よろしくね、ツヴァイ。私は西通りで薬師をしているロッテよ」
「あぁ、テアの主人か。よろしく」
頭を撫でられながら、ツヴァイが上機嫌で挨拶をする。おそらくロッテには猫の声にしか聞こえないだろうが、リディが反応した。
「あら、テアに会ったの?」
「猫組合の集会所で偶然な。もっと若い主人かと思ってた」
「ヒューゲルは王都だから、ベテランの魔女が多いのよ。同じ薬師として私もロッテさんには色々お世話になってるの」
「あらあら、私もリディには若い子の流行とか聞かせてもらってるからお互い様よ」
薬に流行とか関係あるのかツヴァイは疑問に思ったが、話を聞いていると薬というより薬用効果のある茶や、菓子の香りや食感には流行があるらしい。
乗合馬車の時間待ちだと言うことだが、年の差六十はあるふたりの魔女はころころと話題を変えながらひっきりなしにしゃべり続ける。
よく話題が尽きないものだと半ば感心しながら、会話の内容に興味のないツヴァイはリディのひざの心地よさを満喫した。時々頭や体を撫でられるのも嬉しい。