王子様はパートタイム使い魔


 やがて馬車の時間が近づいて、ツヴァイの至福の時は終わりを告げた。リディはツヴァイを鞄に入れて席を立つ。そしてロッテとイーナに挨拶をして魔女組合の建物を出た。

 建物を出たリディは来たときの道を逆にたどり、ヒューゲルの真ん中を突っ切る大きな中央通りに出た。そこは馬車も人も多く行き交うメインストリートで、まっすぐ進めば王宮の正門に続いている。
 鞄の縁から頭を出して、ツヴァイが見慣れた大通りを眺めているところへ、目の前に乗合馬車がやってきて止まった。二頭の馬が引く馬車は通常の二頭立て馬車より少し大きい。 御者台から初老の男が降りてきて扉を開くと、乗客が次々と乗り込んだ。リディとツヴァイも乗り込んで窓際に陣取る。内部も普通の馬車よりは広いが、定員は十名らしい。
 この乗合馬車はヒューゲルを出て周辺の町をぐるりと回り。ヒューゲルに戻ってくる。三台の馬車が数時間おきに出発してそれを一日中ぐるぐると繰り返しているらしい。

 おとなしくするようにとリディに言われ、ツヴァイは黙って窓の外を眺め続けた。会話を楽しむことができないのは寂しいが、そのかわりリディが絶えず頭を撫で続けていたので、ツヴァイは自然とのどをゴロゴロ鳴らしていた。

 もうすぐゼーゲンヴァルトに到着すると言う頃、街道の向こうから二頭立ての馬車がやってきた。たてがみをきれいに整えられた艶やかな鹿毛の馬に引かれた白い立派な馬車は明らかに貴族の乗り物のようだ。あまり道幅の広くない街道で、二台の馬車は互いに速度を落としてゆっくりとすれ違った。すれ違いざま見えた馬車の窓の奥に見知った顔があって、ツヴァイは思わず身を乗り出した。

(お祖父様?)

 目が合ったような気がして反射的に鞄の中に首を引っ込めたが、ハタと気付いて再び顔を出す。正面から見つめ合ったとしても自分がユーリウスであることを知られる心配はなかった。
 祖父がヒューゲルを出ることは珍しい。本当に祖父だったのか自信がなくなってくる。けれど、遠ざかる馬車の背後にある紋章は確かにコルネリウス公爵家の紋だった。


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