王子様はパートタイム使い魔


 相変わらずリディはどうでも良さそうだ。むしろ煙たがっているようにも思える。隠したいほどに貴族であることが嫌なのだろうか。それが不思議なので尋ねた。

「なぜ内緒にする必要があるんだ?」
「魔女としてお祖母様と同じ世界で生きていくなら、七光りとか特別だとか言われたくないからよ」

 意外な真実にツヴァイは短い指を思い切り広げて肉球をリディに見せつけるように前足をあげて言葉を制する。

「ちょっと待て。おまえの祖母は魔女なのか?」
「そうよ。あえて言わなかったけど、私のお祖母様は王宮魔女のグレーテ様よ」
「なんだって!?」

 なんと。よりにもよってあのいけすかない魔女の孫だったとは。
 目を丸くして固まったツヴァイにリディが冷ややかに釘を刺す。

「あなたも猫組合とかで言いふらさないでね」
「そんなことはしない。蛙になりたくないからな」
「よろしくね」

 確かに王宮魔女は爵位を与えられる。基本的に王族や貴族しか出入りを許されない王宮に、有事に備えて常駐しているためだ。
 もちろんかなりの実力があり、国王を始めとする王族からの信頼が得られなければ王宮魔女に就任することはできない。
 リディの言った通り、爵位はグレーテ一代限りのものだ。だが、これはユーリウスにとって有利となるだろう。
 身分や出自にうるさい貴族たちも、能力や素養を兼ね備え、王族の信頼も厚く爵位も有する王宮魔女の孫となれば、王子の結婚相手として問題ないと黙らせることができる。

 光明が見えてきたような気がして、ツヴァイの心はうきうきと高揚する。しかし、ふと不思議に思った。

 グレーテはあの時なぜ、ユーリウスに呪いをかけるほどに怒ったのだろう。

 ユーリウスは以前からグレーテに孫娘がいることは知っていた。国王が時々グレーテに孫の様子を尋ねたりしていたからだ。次代の王宮魔女として任命しようと思っていたのかもしれない。だが、グレーテにその気はないようで、いつも笑顔で「孫はまだまだ修行中の身で」と躱していた。
 言葉ではそう言っていたが、実はグレーテも孫を後継者にしたかったということだろうか。


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