王子様はパートタイム使い魔
「下僕じゃないわ。一緒に仕事をするパートナーよ。上司と部下のようなものね」
「そのたとえはわかりにくい。オレは働いたことなどない」
貴族の家で閉じこめられていた猫なのだろうか。働いたことはなくても人が働く姿は見たことあるのではないだろうか。もっとも猫にとっては関心のないことなのだろうけど。 リディはひとつため息をついて呆れたように言う。
「まぁ、契約猫以外で働いてる猫はいないでしょうけどね」
「オレは猫ではないと言っているだろう」
ムキになって反論する黒猫をリディは軽くあしらう。
「はいはい。人間だったわね。人間なのに働かない方が問題だと思うわよ。見たところ元気そうじゃない?」
「だから事情があるのだ」
黒猫はまた気まずそうに目をそらした。事情とやらを話す気はないらしい。それはとりあえず置いておくとして、リディは契約手続きに入った。
「どっちだかわからなかったけど、声と口調からするとあなたは男の子みたいね」
本当にわからなかったのだ。猫は股間を見れば生殖器でオスかメスかはっきりわかる。ところがこの黒猫はぬいぐるみのように何もなかったのだ。オスだとわかったので、契約に必要な名前は男の子っぽい名前にすることにした。
「名前はレオンでいい?」
「なんだ、それは」
猫は不思議そうに首を傾げた。口調は横柄だが、仕草は愛らしい。リディはにっこり微笑んで答えた。
「先代の契約猫の名前。同じような黒猫だったから」
「オレはそんな名前ではない」
飼い猫ではないらしい猫に名前があるのが意外で、プイと横を向いた黒猫にリディは顔を近づけて尋ねた。
「名前あるの? じゃあ、教えて」
「明かすわけにはいかぬ」
少し苛つきながらも、なにか事情があるならしかたないと自分を納得させながら言う。
「だったら、呼び名はレオンでいいじゃない」
「猫のお下がりはいやだ」
どうやら大した理由はないようだ。それなのに大好きだった先代契約猫をバカにされたような気がして、今度こそリディは黒猫を非難した。