王子様はパートタイム使い魔
「ひどーい。レオンはすごくいい子だったのに。もう、ツヴァイにするわ。あなたは二代目だから」
「なんだ、その適当な名前は! 呼び名などいらぬ! 契約はしないと言っただろう」
背中を丸め毛を逆立てて怒る黒猫にリディは勝ち誇ったように言う。
「契約しないと外にも出られないわよ。無印のままうろうろしてたら、また捕まえられるだけだから」
「契約しなくても祝福だけで印はもらえるだろう?」
「よく知ってるのね」
確かに魔女が契約できる数には限りがある。一般家庭に生まれた黒猫などは、祝福で印を与えるだけということはよくある。この猫はそれを見たことがあるのか。
ということは、身近に魔女がいたということだ。
人に言えない素性や事情。魔女が身近にいるのに無印。それらを総合してリディはピンときた。
「あ、わかっちゃった。あなたが人間だってことが本当なら、なにか魔女の逆鱗(げきりん)に触れて呪いをかけられたんでしょ」
図星だったのか、猫は努めて平静を装っているが、目が泳いでいる。リディはここぞとばかりに畳みかけた。
「だったらやっぱり契約するべきね。呪いはかけた本人にしか解くことはできないんだから、あなたはしばらくそのままよ。野良猫生活よりここにいた方が、少なくともごはんとベッドには困らないからお得だと思うわよ」
猫は少し考えたあと、ポツリとつぶやく。
「……確かに、あいつの怒りが収まるまではその方がいいか」
「じゃ、契約するわね」
すかさずリディは両手で猫を抱え上げて契約の儀式に移行した。
「我、汝ツヴァイと絆の契りをかわす。我が名はリューディア」
「ちょっと待て! オレはツヴァイになってしまうのか!?」
リディの目の前でうろたえる黒猫の体が金色の光に包まれる。まぶしさに目を閉じた猫の口元にリディは口づけた。
光が強さを増しながら猫の額に集まり六芒星が現れる。それと同時に周りの光が消えていった。本来ならそれで契約の儀式は終了する。
ところが光が消えた途端に猫はポンという破裂音と共に白煙に包まれた。
白煙は瞬く間に大きく膨れ上がり、すぐに散り散りとなる。やがて煙が消えたときには、そこに猫の姿はなく金髪碧眼の美しい青年が立っていた。