王子様はパートタイム使い魔

2.使い魔の掟



 リディは先ほどまで黒猫のいた場所を呆然と見つめた。目の前に突然現れた青年の、足元から頭のてっぺんに向けてゆっくりと視線をはわせる。

 スラリと長い足に、しなやかで傷ひとつないきれいな白い手。森の町にいる男たちに比べるとかなり細くて優雅な体に、貴族の着る高そうで重そうでリディには眩しく見える光沢のある白い服をまとっていた。うらやましいほど透き通るような白い肌に整った顔には、黒猫と同じターコイズブルーの瞳。そしてお日様の光を集めたような煌めく金の髪が緩くウェーブを描いて肩の上まで頭を覆っている。黒猫とは真逆の容姿は、青年が先ほどまで黒猫であったとは思えない。にわかには信じがたい事実を、額に輝く金の六芒星が事実であると如実に物語っていた。

 煌めく金の髪をふわりと揺らして、青年は輝く笑顔でリディを見下ろした。

「助かった。礼を言う。半信半疑だったが、おまえは本当に魔女なんだな」

 偉そうな口調と声は黒猫と同じだ。猫の表情に比べるとかなり嬉しそうに見えるが、リディとしては全くおもしろくない。せっかく手に入れた使い魔をまた失ったのだ。不愉快そうに見つめるリディを、青年は腰を屈めてのぞき込んだ。
 元々キラキラの目をさらにキラキラさせて言う。

「呪いを解いてくれた礼に褒美を取らせよう。何が望みだ?」
「褒美なんていらないわ。それに呪いは解けていないわよ」

 リディの指摘に青年は少しうろたえた。

「どういうことだ?」
「呪いはかけた本人にしか解けないって言ったでしょ? それに額に六芒星が出てるもの。人間とは使い魔契約できないの。あなたが未だに猫だという証拠よ」
「なんだってーっ!? ではまたいつ猫になるかわからないってことか!?」
「そうでしょうね。かけた本人にしかキーアクションはわからないわ」

 パニックを起こして頭を抱えている青年とは裏腹に、リディは徐々に冷静さを取り戻していった。そして青年にかけられた呪いの性質もだいたい理解する。この呪いは、魔女の口づけで一時的に解除されるようだ。


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