王子様はパートタイム使い魔
かつて修行中に学んだことがある。人を助けたり支えたりする魔法を学ぶ上で、その対局に位置する呪いや黒魔法も知っておかなければならないからだ。
もちろん安易に使用することは魔女組合で厳しく禁止されている。もっとも呪いや黒魔法もそれを阻止する魔法も高度な魔力と技術を必要とするので、使用できる能力を有する者は限られているし、未熟なリディには当然のごとく使えない。
この青年に呪いをかけたのはかなり高度な能力を持つ魔女なのだろう。あとで魔女組合に問い合わせてみる必要がある。
問題なのは青年の呪いが完全に解けていないこと。そして黒猫ツヴァイとの契約が有効であること。
契約猫と魔女は魔力とその制御を共有する。リディの魔力ではせいぜい一匹としか契約できない。そして一度契約してしまうと、解除しても最低一月は別の契約ができない決まりになっている。生き物との契約なので、安易にコロコロとパートナーを変更しないように魔女組合で取り決められていた。
おそらく青年が完全な人間に戻ったなら契約は無効となり、この決まりは適用外となるのだろう。前契約猫と死別したときがそうだった。事情を説明して、魔女組合に契約解除を許してもらえないだろうか。
リディがそんなことをぐるぐる考えているとき、いきなり青年に両肩をがしりと掴まれた。目の前の青年がキラキラ笑顔で偉そうに告げる。
「よし。おまえ、オレのものになれ」
「はぁ!?」
「おまえの口づけで人間に戻れたんだろう? だったら、猫になったときおまえがそばにいればすぐに人間に戻れる」
どうやら青年も気づいていたらしい。だがそんなことより、人の都合を無視した傲慢な物言いにムッとして、リディは青年の手をふりほどき突き飛ばした。
「ふざけないで!」
「うわっ」
よろけた青年は再び白煙に包まれる。やがて煙が散ったあとには、見覚えのある不愉快そうな黒猫が床にちょこんと座っていた。黒猫はリディを見上げて抗議する。
「なんてことをしてくれたんだ! せっかく元に戻れたのに!」
「自業自得でしょ。人の都合を考えもしないで強引なんだから。そんなだから呪いをかけられたんじゃないの?」