胸いっぱいGYU
それからのオレは今までの束縛から解放されたように絵に没頭した。
香奈の呪縛が解けたわけではない。
だけど、日本にいる時とは比べ物にならないくらいの自由を感じた。
この素晴らしい景色を・・。
この澄んだ空気を・・。
感じながら生きていける。
とにかく毎日描きたいものがあった。
時間の許す限りヨーロッパ中を旅した。
沙都への想いを忘れるくらい絵のことしか考えていなかったオレは日々幸せだった。
沙都と過ごした日々を否定しているんじゃない。
ただ、純粋に絵のことだけを考えていられるのが幸せだったんだ。
そんな日々を過ごしていたオレはいつの間にか23歳になっていた。
日本を出てから4年・・。
その間一度も帰国をしていない。
・・と、いうか香奈からの命令だった。帰国してはいけないと・・。
帰国する用事もないオレは特に苦痛にも感じなかった。
「おい、諒。今度日本に帰国するんだけど、お前どうする?残っててもかまわないぞ?」
いつもどおりオレの師事している先生のアトリエにいくと突然そんなことを言ってきた。
「帰国・・ですか・・。いえ、オレは・・」
そう、帰れるハズのないオレはその誘いを断った。
「そうか。まあ、お前にはこっちのほうがあってるかもしれないな」
日本をたってからのオレの様子をみていた先生はそう言ってくれた。
まあ、先生は香奈のことなんて知る由もないからこっちへきてからの生き生きぶりをみてそう思ったんだろう・・。
先生は目の前にあったパソコンをいじりながら現在の日本の様子を調べ出した。
オレは先生のアトリエの本棚の画集を引っ張り出していた。
「へぇーー、花園グループ倒産かーー」