泣き跡に一輪の花Ⅰ~Love or Friends~。
「奈々、追いかけてよ」
俺の肩を叩いて、恵美は言う。
「は? 恵美、何言ってんの?」
「何言ってんのじゃないよ。どうするの。あづがいける場所なんて、どこにもないんだよ? 今ほっといたら、また金たかりに行ったりするかもしれないよ? そんなのダメでしょ?」
「そうかもしんねえけど、でも……」
――今走れば、取り返しがつかなくなる。病気だって、きっともっと悪化する。
「行って、奈々絵!」
恵美は俺をベンチから立ち上がらせると、笑って背中を押した。
「恵美、ごめん! 愛してる!!」
そう言うと、俺は全速力であづのところまで行った。
膝が痛い。これ、足止めたらそのまま意識失うんじゃないかと思う。
下手したら、そのまま病院で入院だって有り得る。
恵美はそうなるのを知ってて、
俺の背中を押したのか。
そう考えたら、
ますます申し訳なさが募った。
……ホント、最高の彼女だよ。
恐らく、これは10分すらも持たない。
——ズキ。
……いや、10分どころか、5分も持たないだろうな。
「空我っ!!!」
大声を上げられる筈のない喉仏を使って、俺は力いっぱいに叫んだ。
そうしても、凡人の叫び声には
全然到達しないけど。
くそ……。
俺は思わず、今すぐにでも、
声すらも枯れて、
足も鉛と化してしまうんじゃないかと疑った。
——まぁ、別にそうなってもいいか。
あいつを救えるなら。