泣き跡に一輪の花Ⅰ~Love or Friends~。
「な、奈々絵っ!?」
廃ビルの入口に、そいつはいた。
「…………あづ」
あづは俺が追いかけてきたのを見て、
ギョッとしたように開いた口を
塞げずにいた。
「ゲホッ、ゴホゴホッ!! ハァ、ハァ……」
両膝に手のひらをつけて、
俺は荒々しい息を整えた。
「奈々絵?」「ハァ。……病人、走らせんなよ馬鹿」
俺の暴言と、近づいてきたあづの声が
被った。
「……大丈夫、だから。……父親は、お前を嫌ってねぇから。だから、さ……会おうぜ」
「でっ、でも……」
「大丈夫だよ。な?」
「奈々絵……」
——グキ。
刹那、何かが切れたような、あるいは壊れたような不可解な音が脳に響いた。
その不協和音を聞いた同時に、俺の視界は徐々にボヤけて、立っていた足がガクガクとバランス感覚を失っていった。
——ダメだ。俺は死んでもあづを救おうって、穂稀先生に電話をかけたあの日、そう心に誓ったのに……。
「おいっ、奈々絵っ!!!」
咄嗟に俺の体を支えたあづの声を聞くのを最後に、俺はまた三年前と同じく、気を失った。