泣き跡に一輪の花Ⅰ~Love or Friends~。
俺達は街で見かけた陰キャそうな男を路地裏に連れていった。
「……一万ねぇ? これしかねぇの?」
男のズボンのポケットにあった財布から奪った一万円札を揺らして、怜央は不服そうに言う。
「すっ、すみません!今はそれしか持ってないです」
怜央の目の前にいる男が、怯えながら叫ぶ。
「……だってよあづ。どーする?」
俺はそいつが抱えてた鞄を奪うと、チャックを開けて逆さにした。
すると教科書やノートと一緒に、カードケースが落ちてきた。
……やっぱりか。
「……全額下ろしてこい。でないと殺す」
カードケースの中からキャッシュカードを取り出して男に手渡すと、俺はそう低い声で言った。
直後、男は俺の手を振り払うと、走って逃げていった。
ちっ。暗証番号わかんねぇし、ダメだな。
まぁ誕生日とか1234とかそういう簡単なのかもしれないが、わざわざコンビニまで行って引き落とす気にはならない。
さすがにそこまで悪ではないし。
「……あづ、えげつな」
落ちたカードを拾い上げると、笑いながら怜央は言う。
「……別に普通だろ」
「いやいや、今のは怖ぇって。やられる側だったら俺も逃げちゃいそー」
「……そんなか?」
首を傾げて俺は言う。
「ああ。やっぱ楽しいなあづといんのは」
そう言って、怜央は楽しそうに笑った。
「……そりゃどーも」
そう言って、俺は笑った。
……悪いことをしている自覚はあった。金をたかるなんて許されないことだ。親にろくな教育を受けてなくても、それくらい知っている。それでも俺は、辞める気にはなれなかった。
俺はその日、結局夜まで怜央とばかやった。