もう一度、あなたに恋していいですか
雨は止む気配を見せない。
それから彼は話しかけてこず、雨が地面を跳ねる音だけが響いている。

この天気は、まるで私の心を映しているようだった。
私のために、空がかわりに泣いてくれているのかもしれない。
厚い雲に覆われ、激しく打ち付ける雨。
2度と止まないのではないかとさえ思う。
それでも良い。
どうなろうがもう構わない。
今は何も考えたくない…

「雨って、素敵だと思いませんか」

私の右隣に立っている彼が、止まない雨を見つめながらそう言った。

「ごめんなさい、いきなり話しかけて。でもいまそう思ったのでつい」

彼は照れながら笑う。
笑顔の似合う人だなという印象だった。

「素敵?」

「はい。そう思いませんか?」

雨が素敵だなんていう人に初めて会った。
変なことを言う人だな。

「私はむしろ、雨ってめんどくさい。びしょびしょになるし、洗濯は干せないし。…何て言ったって、憂鬱な気持ちになるもの」

彼氏の浮気現場を思い出して、私はまた憂鬱になる。
雨なんて、嫌いだ。

「ははは、そういう考えもありますね。でも僕は雨の音を聞いていたら心が落ち着くんです。雨の日はこうやって目を閉じて、雨の音を聞いているんです」

そう言って彼は目を閉じる。
とても穏やかな表情をして、雨の音に耳を傾けている。
私もつられて彼と同じように、両目を閉じた。

ーーーサアアアア…

こんなふうに目を閉じて、雨の音を聞くことなんて今までになかった。
仕事に追われ、ゆっくり雨の音を聞く余裕すらなかったのかもしれない。
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