秋恋祭り (あきこいまつり)
 その日の作業が終わり、そのまま顔見知りの人達と飲みに行く事になった。

 外へ出ると夜の雨がしとしとと降り始めていた。


 俺は美夜も誘うと軽い気持ちで探していた足が、静止ボタンでも押されたように止まってしまった。


 俺の目の前で、夜空の雨を見上げるように立つ美夜の頬を、微かに雨の雫が光らせていた。

 俺はその姿を綺麗だと思ってしまった。

 もう少し、美夜を見ていたかった。


 そして、ゆっくりと美也が俺に目を向けた。

 俺は直ぐに声が出せなかった。


 あまりにも純粋な目が俺の心に真っ直ぐに入ってきたのだ……


「風邪引くよ……」

「うん。気持ちよかった……」

「皆、飲みに行くって…… 一緒に行かないか?」

「うん」


 その時、俺の口は踏み込んではいけない一歩を口にしてしまった。

「車で乗せてってやるよ」

「ええ…… でも皆は?」

「いいよ。乗って行きな……」


 歩いても数分程の居酒屋に、俺は皆と歩いて行くつもりだった。

 何故、俺は美夜を車に乗せたのだろう? 

 今まで一度だって、祭りで女の子を乗せた事なんて無かったのに…… 


 すでに答えは分かっていたのかもしれない、でも気付きたく無かった……

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