秋恋祭り (あきこいまつり)
 でも、何故俺は会社に行くなんて約束をしてしまったのだろう?
 そんな事をして何になるって言うのだ……

 しかし、俺は美夜の会社に向かった。

 受付に居た美夜は、俺を見るなり嬉しそうな笑顔を見せた。

 そう、以前見た受付用のスマイルでは無かった。


「嘘つきじゃないだろう?」

「うん」


 俺はただ、美夜にうそつきじゃない事を証明したかっただけだと気が付いた。

 近くのケーキ屋で買ったクッキーの缶を美夜に渡した。

 別に、訪問先への手土産など珍しい事では無いが、美夜のプレゼントでも貰ったかのように、嬉しそうか抱える姿が俺の胸を苦しめた。


 担当者に資料を渡して事務所を出ると、深いため息が漏れた。



 祭りの準備は着々と進められていた。

 毎週会う美夜の隣には俺が居るのが当たり前になっていた。
 始めは、男達がちょくちょく美夜に声を掛け誘っていたが、今では俺の顔を見ると美夜から離れて行く。

 勿論、悪い気はしないがそれだけじゃない。


 もう一つの目的が俺にはある。それは、間もなく迎える秋祭り本番にあった。
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