秋恋祭り (あきこいまつり)
 助手席に座り、雅巳と二人きりになると一気に緊張が高まってしまった。

 男の人の車に乗るなんて始めてだった。


「そんなに固くならなくても…… すぐ着くから……」

 
 雅巳は優しくほほ笑んだ……

 言わなくてもいいのに、口が勝手に動きだしてしまう。

 
「私なんかが助手席に乗ったら、彼女に悪いんじゃ……」


 私は言ってしまってから、その先の答えを知りたかったことに気付いた。


「……」


 やっぱり、何も言ってくれない……


「大丈夫だよ……」


 返ってきた雅巳の言葉に、大丈夫って何が? 

 聞きたいのに言葉がでなかった。



 唇をかんだ私の頭を、雅巳の手が優しく撫でた。

 その手が暖かくて涙が出そうになる。


「美夜ちゃん、彼氏いるの?」


「そんなのいないですよ。私もてないですから」


 何だか自分がいじけているようで嫌だ。

 雅巳の表情が気になり少し顔を上げると、あまりにも目が優しくて……

 からかわれているのかどうかも分からなくなってしまう……


 雅巳の顔が近づいて来た気がしたが、雅巳は私の頭からそっと手を離して前を向いていた。


 私は胸のドキドキが治まらなくなっていた。

 わずか数分のドライブが私の心を変えてしまったのだ。
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