日常に、ほんの少しの恋を添えて
「何してるんですか。休んでなきゃダメじゃないですか」
「いや、もう熱下がったから、大丈夫」
「ほんとですか?」

 念のため熱を測ってみたら、確かに平熱だった。
 見た感じももう辛くなさそうだし、インフルエンザとかではなかったのかもしれない。
 ちょっとホッとした。
 そんな私を見て、専務が微笑む。

「体も痛くないし、他に症状もない。本当に大丈夫だよ」
「そうですか……それならよかったです。何か食べられそうですか?」
「軽いものなら。ヨーグルト食べたい」
「じゃ、今用意しますね」

 くるっと踵を返し、足早に寝室を出る。
 話をしている途中で昨夜のことを思いだし、今更顔に熱が集中してきた。

 ――まずい、照れる。っていうか、ほんとアレ何だったんだろう。専務全然普通だったし、もしかして覚えてないの? というか私の願望からくる空耳みたいなものだったのか……

 専務の朝食を用意しながら、考えを巡らせる。

 もし夢じゃなくてあれが本当に専務の気持ちだったとしたら……

 やばい。心臓がどきどきしてきた。

 私がこんなことを考えながら手を止めていたら、寝室から出て軽く身支度を済ませた専務がキッチンにやってきた。
 
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