日常に、ほんの少しの恋を添えて
 見たことのない無精髭を生やした専務が近くにいて、ついゴクン、と生唾を飲み込んでしまった。

 なんか、起き抜けの男の人ってセクシー。
 
 いや、男の人がセクシーなんじゃない。だって元カレの起き抜けの姿をセクシーだなんて思ったことない。
 藤久良湊という男に色気を感じているんだ、私。

「長谷川」
「っ、は、はい」

 急に呼ばれ、慌てて専務を見る。すると冷蔵庫から冷えたミネラルウォーターを取り出した専務が、私を真っ直ぐ見つめている。
 これまでにあまり見ない真剣な表情と、熱を帯びた眼差し。私は射すくめられてしまったように身動きができず、息を呑む。

「専務……?」
「あのな長谷川、昨日……」

 昨日、という単語が専務の口から出てきた瞬間、私の心臓がどっきーんと跳ねる。
 しかし。このタイミングでまたもやピンポーンとインターホンが鳴った。

「「……」」

 安定のタイミングの悪さに、私も専務も呆然とお互いを見つめる。

「なんなんだ、昨日といい今日といい……俺らに何か恨みでもあんのか……」

 恨み言をぼそぼそと呟きながら、インターホンに映し出された画像を覗き込む専務。だけどその画像を見た瞬間に、「あ」と言ってすぐ通話ボタンを押した。

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