日常に、ほんの少しの恋を添えて

「専務ね、さっき事情話して、長谷川さんのことよろしくって私に頼んできたのよ。多分今日のこれ。あ、お弁当ね。専務わざとだと思うわ。こんなことになって一番びっくりしてるのは専務でしょ。あの口ぶりだとまだまだこの会社にいるつもりだったっぽいし……ていうか心配事が長谷川さんって……他にないのかよって心の中で突っ込んだわ」

　花島さんが苦笑する。
　心配されていることを知り、そのことに関しては嬉しい。けれど今はそれよりも専務との別れが近づいていることの方に頭がいってしまい、私はうまく笑えない。

「長谷川さん大事にされてるのね。だから余計今回のことはショックかもしれないけど……」

　寂しそうに笑って、花島さんはハンバーグを口に運ぶ。その様子を見てから、私も目の前に置かれたハンバーグにようやく手を付ける。

　――美味しい。
　
　さすが予約必須のハンバーグ弁当。人気があるだけのことはあってお肉の味がしっかりしていて、ジューシーでとても美味しい。
　美味しいけど、今の私には純粋に美味しさを感じられるだけの心の余裕がなかった。

「専務、行っちゃうんですね……」
「そうね。でも専務にとってはおめでたいことだから。祝福しないとね」
「そうですね……」