日常に、ほんの少しの恋を添えて
『なんだ、寝てたのか……。あのさ、怪我してるところ申し訳ないんだが今からそっち行っていいか』

 ――ん? 今、専務なんて言った?

「あの、すみません。今……」
 聞き間違いかと思い、即座に聞き返す。
 
『そっち行っていいか』

 ――はっ!?

「せっ、専務!! なな、なん……さっきうちに来たじゃないですか! なのに、なん……」
『送別会の会場で、料理を一人前テイクアウトしてもらったから、お前のとこ届けようと思って』

 慌てふためく私をよそに、冷静な専務がきっぱり言い切る。
 それを聞いて、ああ、なんだ……と私もちょっと冷静になれた。

「料理ですか……ありがたいですけど、専務お疲れでしょうから、もう……」
『みんな酒ばっか飲んでたから、料理結構残ったんだ。だから参加者で分けて持って帰ることにしたんだよ。お前、その足じゃ明日も家から出られないだろ? サンドイッチとかあるから、明日の食料にすればいいと思って』

 あっ、そっか、明日の食料……
 そう言われてストン、と腑に落ちた。。実際年末年始休み突入ということもあり、実家に帰るつもりでいた私は極力冷蔵庫の中に食料品を残さないようにしていた。そのためすぐに食べられるような食料品は冷蔵庫に何も入っていなかった。
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