日常に、ほんの少しの恋を添えて
 私もお鍋を戴き、ほんのちょっとだけご相伴にあずかりビールを飲んだけど、そんなに量も多くないので少し体が温まった程度。
 赤い顔でニコニコ話す常務とは対照的に冷静で顔色を変えず淡々と話すのは専務だ。
 私は彼らの顔を交互に見ながら、なんとなく話を聞いている。いや、秘書としてそれではイカンのだが……でも今彼らがしている会話は、はっきり言って私には関係のない、雑談だ。

 ――岩谷常務、酒癖悪いって聞いてるけど今の段階ではそこまで悪いとは思えないな。確かにテンションは高くなってきてるけど……
 新見さんや専務が過剰に心配してるだけなんでは。と思っていたら、専務がちょっとトイレに、と席を立った。岩谷常務と二人きりになり、何か話をしなければ、と常務の顔を改めて見ると。

「!?」

 私は慄いた。
 なぜなら、岩谷常務がニコニコしながら私の方を見ていたからだ。
 ――れっ!? あれ!? さっきまでぜんぜん私の方なんか見てなかったのに……!

「長谷川さんは、今幾つなの?」
「23、です」

 年齢を言った瞬間、岩谷常務の目がより一層見開かれる。

「23!? そんなに若いのか! 俺の秘書なん45でしかも男だよ! いいなあ湊君。羨ましい」
「いえ、私はまだまだ秘書として未熟なので。努力しなければ、と常日頃思っているところで……」

 私が話し終わる前になぜか岩谷常務が立ち上がった。それを「?」と不思議に思いながら目で追うと、あろうことか常務は私の隣に座ってくる。

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