日常に、ほんの少しの恋を添えて
慌てた様子の岩谷常務は、「じゃあね、湊君に長谷川さん」と言いながら座敷を出ていく。常務に頭を下げ、帰っていくのを見届けると、気が抜けた私は座敷にへたりこんだ。
「は――、びっくりしました……」
「お疲れ様。だから言ったろ。もっと早く逃げてよかったんだぞ」
同じく座敷に座り込んだ専務が私に向き直る。そんな専務に私はつい、イラッとなって食ってかかる。
「そんな、できませんよ! 機嫌損ねたらえらいことになっちゃうじゃないですか!」
苛つく私を見て、専務は少し困ったような顔をした。
「……急いだんだが岩谷さんの秘書につかまってだな……それに酒癖悪いのは事前に伝えてあっただろ」
「そんなこと言われても……いざああいう場面に直面するとどうしていいか分かりませんでした……」
専務の顔をじっと見つめると、彼は私を見てフッと笑みを漏らす。
「岩谷さん、酔うと面倒くさいけど実は恐妻家なんだ。口説きはするかもしれないが、実際問題今までに若い子に本当に手を出したりしたことはないから安心しろ」
「ほ、ほんとなんですか、それ」
「本当。まあ、あの人酔ってるときの戯言は、ほとんど覚えてないらしいからな。さて、帰るぞ」
「……」
最後のそれ、もっと早く言ってくださいよ……
脱力する私の横で専務がよっ、と言って立ち上がった。それを見て私もため息交じりに立ちあがる。
「は――、びっくりしました……」
「お疲れ様。だから言ったろ。もっと早く逃げてよかったんだぞ」
同じく座敷に座り込んだ専務が私に向き直る。そんな専務に私はつい、イラッとなって食ってかかる。
「そんな、できませんよ! 機嫌損ねたらえらいことになっちゃうじゃないですか!」
苛つく私を見て、専務は少し困ったような顔をした。
「……急いだんだが岩谷さんの秘書につかまってだな……それに酒癖悪いのは事前に伝えてあっただろ」
「そんなこと言われても……いざああいう場面に直面するとどうしていいか分かりませんでした……」
専務の顔をじっと見つめると、彼は私を見てフッと笑みを漏らす。
「岩谷さん、酔うと面倒くさいけど実は恐妻家なんだ。口説きはするかもしれないが、実際問題今までに若い子に本当に手を出したりしたことはないから安心しろ」
「ほ、ほんとなんですか、それ」
「本当。まあ、あの人酔ってるときの戯言は、ほとんど覚えてないらしいからな。さて、帰るぞ」
「……」
最後のそれ、もっと早く言ってくださいよ……
脱力する私の横で専務がよっ、と言って立ち上がった。それを見て私もため息交じりに立ちあがる。