恋愛預金満期日 
「あの…… あの…… 僕はあなたが好きです」


「えっ」
 彼女は驚いた。


「初めてあなたを見た時からずっと…… 多分…… 一目ぼれです…… でも、あなたに近づけば近づく程、気持ちが強くなってしまって…… 分かっています。あなたみたいに若くて素敵な人に、僕みたいなおじさんが好きだなんて厚かましい事…… でも…… 始めてなんです。誰かを幸せにしたいと思った事…… 誰かの為に頑張ろうって…… 始めて思ったんです。本当に情けない男なんです。けど、あなたが居れば何でも出来るんです」

 僕は自分の気持ちを思うがままに口にした。
 
 それしか出来なかった……

 そして、大きく息を吸うと彼女の目を真直ぐ見た……


「あなたが好きです。結婚して下さい!」

 僕は頭を下げた。

 彼女の表情を見るのが怖かった。

 きっと困っている。

 もしかしたら怒っているかも……


「…………」

 彼女は黙ったままだった。


 僕は情けない事に、直ぐに彼女に断られるのが怖くなった。


「返事は急ぎません。時間のある時で構いません。考えてみて頂けないでしょうか?」

 僕は彼女の顔を見ないまま立ち上がり、伝票を手にして会計へ向かった。


 マスターが会計を済ませた僕に、何も言わず深く肯いた。




 僕は喫茶店を出ると、彼女の座る席の窓へ目をやった。


 マスターが彼女のカップにコーヒーを注いでいた。

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