恋愛預金満期日 
 僕は異動の準備に慌ただしく、彼女が来る時間に窓口に居る事が少なくなった。

 いや、あえて居ないようにしていた。

 彼女が僕をどんな顔で見るのか? 知りたくなかった。


 英会話の日、僕はいつもの喫茶店へ入った。

 常連客がやけに多いのは気のせいだろうか? 彼女はまだ来て居なかった。

 十分程過ぎたがまだ来ない。

 彼女が遅れるなんて初めてだった。


 もしかして、来ないのではと不安になった時だった。

 喫茶店のドアが開き彼女が息を切らして入って来た。


「すみません。パソコンがトラぶっちゃって、月末の処理が終わらなくて……」
 彼女は申し訳なさそうに言った。

 僕は、彼女が来てくれてほっとした。


「いいえ。お忙しかったんですね。お仕事大丈夫ですか?」


「はい。何とか終わりました。良かった。海原さん帰っちゃったかと思って」


「おいおい…… まだ十分足らずですよ。そんなに僕は気が短く無いですよ」


「失礼しました」

 彼女はぺこりと頭を下げ笑った。

 僕も笑った。


 マスターが注文を取りに来た。

 僕はブレンドを、彼女も同じ物を頼んだ。


 コーヒーが届くまでお互い口を開かなかった
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