好きになった彼は幽霊でした。

この人は大丈夫だよ、この人は味方だよ。
そう、幼い自分に語り掛けるけど聞こえていない。


「こんなに怖がって…可哀想に。大丈夫、俺は君の味方だよ。俺にも見えるんだよ、君と同じように。」


「え…?そう…なの?」


「うん、そう。だから出ておいで?」


この時、何故だか、この人は信じてもいい人だと思った。私は外に出ると、彼に抱き着いて泣きじゃくった。


「よしよし、大丈夫だから、もう泣かないの。」


その後、彼は近くの神社に住んでると言った。
それから私は何かあると神社のお賽銭の前にいた。彼は私のところへ決まって来てくれた。


そして3年が経ったある日、引っ越すからもう会えないと聞かされた。嫌だと泣く私に彼はお守りをくれた。


「これ、あげる。これには、おまじないをかけてあるんだ。だから、君を守ってくれるよ。」


「でも…行かないでっ…!」


すると彼は私を抱き締めながら言った。


「文を書き置きてまからむ。恋しからむをりをり、取りいでて見たまへ。」


「え……?」


幼い私には意味が分からなかった。


「ああ…ごめん。これはね、竹取物語っていうかぐや姫の言葉なんだよ。手紙を書いてくから、私の事を恋しく思ったら、この手紙を見て下さいって意味なんだ。だから君も俺に会いたくなったら、このお守りを見て思い出してね?」


この時の私にはいまいち意味が分からなかったけど、後に図書館で調べて意味を知った。


「うん…分かった…。」


次の日、彼は居なくなってしまった。
それから一度も彼には会っていない。


残るのは、お守りと微かな私の記憶だけ━━━…。

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