姿の見えない君と恋をしよう
前にも言ったように、僕は目が悪いわけじゃない。

それどころか、僕の家では目が悪い人は居ないのだ。

父も母も、姉でさえ目がいい。

眼鏡なんて物はこの家では、不必要なものだった。

それが何故、僕の部屋にあるのか。

それが分からない。

それに、先ほどのコンタクトレンズだってそうだ。

何故こんなにも目に関わる物ばかりが置かれているのだろう。

そして僕は、棚の奥からコンタクトレンズの箱を取り出した。

見た目は全然普通のコンタクトレンズだ。

いや、だからこそ不気味なのかもしれない。

これがもし、変な文字が書かれた箱ならば、僕はその箱は捨てている。

普通に売っていそうなこの箱だからこそ、捨てられないのだ。

何故、そう思ったか。僕は眼鏡をかけた。

きっと、かけた理由はない。

手が進んだだけ。それだけだった。

だが、それだけの事だが、僕の夏を変えるには、十分すぎた。

蝉の音が五月蝿い、8月。

僕の止まっていた時が動き始めた。
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