時を超えて君想ふ
『両親がね、殺されたの。ボクのせい』
そういったチカの表情は何もなかった
ただ淡々と話し出した
どこにでもある普通の家庭だった
父さんと母さん、そしてワタシ
小さい頃のワタシは両親が大好きで
人見知りだった
他の人と関わろうとしない娘を
両親は心配して様々な習い事をさせた
そのうちに周りと関わるようになった
可愛がられたと思う
周りの人は優しく声をかけてくれたし
何かと気にかけてくれた
その中に面倒見の良いオニイサンがいた
オニイサンは近所の子どもたちに人気だった
みんなオニイサンに懐いていた
いつも広場でみんなとオニイサンと遊んだ
ある日を境にワタシはオニイサンの言動が気になるようになっていた
オニイサンがワタシを贔屓し始めた
きっかけは分からない
みんなにお菓子をオニイサンが配っていた後に、みんなが居なくなってからワタシだけに多くお菓子をくれた
嬉しかった
みんなと遊んでいるときによくオニイサンと目があった
不思議だった
ワタシだけを贔屓にしてくれるオニイサンみんなは次第にワタシから離れて行った
躓いて転けてしまったとき
オニイサンは怪我がないかオニイサンは執拗にワタシの身体を触ってきた
気持ち悪かった
オニイサンから飴をもらった
みんなは手渡しだったのに、ワタシだけはオニイサンがアーンしてくれた
飴を舐め終わるころふわふわとした感覚になった
気づいたら、ベンチに座ったオニイサンに横抱きされていた
倒れかけたところをオニイサンが抱きとめてくれたらしい
笑顔のオニイサンにお礼をいって早く帰ることにした
帰り道、脇腹らへんが妙に湿っており、服を触ると白いねちょねちょしたモノが手についた
怖かった
だんだん広場に行く回数が減って行った
そんな様子に両親は心配した
気づいていたんだと思う
ワタシの言動がおかしくなっていたことに
そして両親は見てしまった
広場に行く回数は減ったものの、行くことがなくなったわけではない
オニイサンがワタシにしていたことを
オニイサンは2人だけの秘密のアソビと称して、ワタシを木陰に連れて行っていた
そこでワタシは目を瞑らないといけない
その間オニイサンが何をしているかはわからない
オニイサンの荒い呼吸
オニイサンの手がワタシの顔や身体に触れる感覚
酸っぱいような臭い
唇や頬に触れる硬い、湿っぽいモノ
怖かった
そして、顔に酸っぽい臭いがするねちょねちょとしたモノをかけられる
ありがとう、オニイサンはそう声をかけてからワタシの顔を拭く
ソレが終わるとオニイサンは頭を撫でる
それを合図にワタシは目を開ける
これで秘密のアソビは終わり、解放してくれる
今でこそ、この行為がなんだったかわかるが、その頃はソレが得体のしれなかった
しかし、両親はこれを見てしまった
我が子がナニをされているか
ソレのせいで、我が子の様子がおかしくなってしまったことを
そこからの行動は早かった
引越しだ
お友だちと離れることは寂しかったが
オニイサンと離れられることが嬉しかった
挨拶は急だったからできなかったが、
お友だちには手紙を書いた
新しいところに慣れると
ワタシは明るさを取り戻していた
オニイサンのことなど忘れていた
家族で夕食を食べていた
特別な日でもないありふれた、しかし穏やかで温かいかけがえのない日常
ガタン
音がした
父さんが様子を見に行った
数分すると怒鳴り声が聞こえた
怖くなって母さんに抱きつく
ドアが開く
オニイサンが立っていた
オニイサンの手には刃物があった
赤で濡れていた
オニイサンの後ろから父さんがオニイサンを羽交い締めした
逃げろ
父さんからの、鋭い声だった
初めて聞いた声だった
オニイサンが嗤った
オニイサンが動いたあと父さんが倒れた
母さんの制しを無視して父さんに駆け寄った
揺すっても、呼び掛けても、父さんの目は開かない
父さんには赤がついていた
危ない!
母さんの叫び声が聞こえた
母さんの優しい匂いに包まれた
覆いかぶさるように母さんがワタシに抱きつく
ドンドンと振動が伝わる
母さんの我慢したような声が聞こえる
母さんが大丈夫大丈夫と言う
その声が途切れた
ずさり
母さんが床に投げ出された
母さんにもたくさんの赤がついていた
オニイサンが笑う
オニイサンがワタシに触れる
邪魔者はもーいないよ
逃げるからいけないんだ
君のせいだよ
君が逃げなかったら、こーはならなかった
可愛い可愛いボクだけの特別な女の子
君はとても可愛いから、こんなことはしたくないけれど、仕方ないんだ
君がボクをそーさせる
君がボクを誘うんだ
だから、君のせいだよ
ワタシの手は真っ赤だった
ポタリポタリ
刃物から落ちる赤の音が大きく聞こえた
そこから隣の家の人呼んでくれた警察が来て、オニイサンは捕まった
父さんと母さんは目を閉じたままだった
父さんと母さんについた赤が
ワタシの手についた赤とおんなじで
目について離れなかった
1人になったワタシは親戚の家にお世話になった
そこでね、何回襲われそうになったか
ワタシが誘うんだと
ワタシの容姿が言動が雰囲気が全てが
ワタシが女だから
じゃあ、長い髪は切ってしまえばいい
言動も男みたいにすればいい
男に関わらない環境にすればいい
誰かの特別にならないようにすればいい
全部ぜーんぶ変えちゃってワタシからボクになったらね
一人で生きていけるようになった
それに祖父がね、引き取ってくれたんだ
数ヶ月だったけれど、父さんと母さんと
過ごしていたときみたいでね
穏やかでぽかぽかしたの
でも、死んじゃった
寂しい
どーして父さんと母さんと一緒に
ならなかったんだろう
父さんにも母さんにも祖父にも置いてかれちゃった
寂しい
ひとりはやだよ
ボクはどーすればいいんだろう
そういったチカの表情は何もなかった
ただ淡々と話し出した
どこにでもある普通の家庭だった
父さんと母さん、そしてワタシ
小さい頃のワタシは両親が大好きで
人見知りだった
他の人と関わろうとしない娘を
両親は心配して様々な習い事をさせた
そのうちに周りと関わるようになった
可愛がられたと思う
周りの人は優しく声をかけてくれたし
何かと気にかけてくれた
その中に面倒見の良いオニイサンがいた
オニイサンは近所の子どもたちに人気だった
みんなオニイサンに懐いていた
いつも広場でみんなとオニイサンと遊んだ
ある日を境にワタシはオニイサンの言動が気になるようになっていた
オニイサンがワタシを贔屓し始めた
きっかけは分からない
みんなにお菓子をオニイサンが配っていた後に、みんなが居なくなってからワタシだけに多くお菓子をくれた
嬉しかった
みんなと遊んでいるときによくオニイサンと目があった
不思議だった
ワタシだけを贔屓にしてくれるオニイサンみんなは次第にワタシから離れて行った
躓いて転けてしまったとき
オニイサンは怪我がないかオニイサンは執拗にワタシの身体を触ってきた
気持ち悪かった
オニイサンから飴をもらった
みんなは手渡しだったのに、ワタシだけはオニイサンがアーンしてくれた
飴を舐め終わるころふわふわとした感覚になった
気づいたら、ベンチに座ったオニイサンに横抱きされていた
倒れかけたところをオニイサンが抱きとめてくれたらしい
笑顔のオニイサンにお礼をいって早く帰ることにした
帰り道、脇腹らへんが妙に湿っており、服を触ると白いねちょねちょしたモノが手についた
怖かった
だんだん広場に行く回数が減って行った
そんな様子に両親は心配した
気づいていたんだと思う
ワタシの言動がおかしくなっていたことに
そして両親は見てしまった
広場に行く回数は減ったものの、行くことがなくなったわけではない
オニイサンがワタシにしていたことを
オニイサンは2人だけの秘密のアソビと称して、ワタシを木陰に連れて行っていた
そこでワタシは目を瞑らないといけない
その間オニイサンが何をしているかはわからない
オニイサンの荒い呼吸
オニイサンの手がワタシの顔や身体に触れる感覚
酸っぱいような臭い
唇や頬に触れる硬い、湿っぽいモノ
怖かった
そして、顔に酸っぽい臭いがするねちょねちょとしたモノをかけられる
ありがとう、オニイサンはそう声をかけてからワタシの顔を拭く
ソレが終わるとオニイサンは頭を撫でる
それを合図にワタシは目を開ける
これで秘密のアソビは終わり、解放してくれる
今でこそ、この行為がなんだったかわかるが、その頃はソレが得体のしれなかった
しかし、両親はこれを見てしまった
我が子がナニをされているか
ソレのせいで、我が子の様子がおかしくなってしまったことを
そこからの行動は早かった
引越しだ
お友だちと離れることは寂しかったが
オニイサンと離れられることが嬉しかった
挨拶は急だったからできなかったが、
お友だちには手紙を書いた
新しいところに慣れると
ワタシは明るさを取り戻していた
オニイサンのことなど忘れていた
家族で夕食を食べていた
特別な日でもないありふれた、しかし穏やかで温かいかけがえのない日常
ガタン
音がした
父さんが様子を見に行った
数分すると怒鳴り声が聞こえた
怖くなって母さんに抱きつく
ドアが開く
オニイサンが立っていた
オニイサンの手には刃物があった
赤で濡れていた
オニイサンの後ろから父さんがオニイサンを羽交い締めした
逃げろ
父さんからの、鋭い声だった
初めて聞いた声だった
オニイサンが嗤った
オニイサンが動いたあと父さんが倒れた
母さんの制しを無視して父さんに駆け寄った
揺すっても、呼び掛けても、父さんの目は開かない
父さんには赤がついていた
危ない!
母さんの叫び声が聞こえた
母さんの優しい匂いに包まれた
覆いかぶさるように母さんがワタシに抱きつく
ドンドンと振動が伝わる
母さんの我慢したような声が聞こえる
母さんが大丈夫大丈夫と言う
その声が途切れた
ずさり
母さんが床に投げ出された
母さんにもたくさんの赤がついていた
オニイサンが笑う
オニイサンがワタシに触れる
邪魔者はもーいないよ
逃げるからいけないんだ
君のせいだよ
君が逃げなかったら、こーはならなかった
可愛い可愛いボクだけの特別な女の子
君はとても可愛いから、こんなことはしたくないけれど、仕方ないんだ
君がボクをそーさせる
君がボクを誘うんだ
だから、君のせいだよ
ワタシの手は真っ赤だった
ポタリポタリ
刃物から落ちる赤の音が大きく聞こえた
そこから隣の家の人呼んでくれた警察が来て、オニイサンは捕まった
父さんと母さんは目を閉じたままだった
父さんと母さんについた赤が
ワタシの手についた赤とおんなじで
目について離れなかった
1人になったワタシは親戚の家にお世話になった
そこでね、何回襲われそうになったか
ワタシが誘うんだと
ワタシの容姿が言動が雰囲気が全てが
ワタシが女だから
じゃあ、長い髪は切ってしまえばいい
言動も男みたいにすればいい
男に関わらない環境にすればいい
誰かの特別にならないようにすればいい
全部ぜーんぶ変えちゃってワタシからボクになったらね
一人で生きていけるようになった
それに祖父がね、引き取ってくれたんだ
数ヶ月だったけれど、父さんと母さんと
過ごしていたときみたいでね
穏やかでぽかぽかしたの
でも、死んじゃった
寂しい
どーして父さんと母さんと一緒に
ならなかったんだろう
父さんにも母さんにも祖父にも置いてかれちゃった
寂しい
ひとりはやだよ
ボクはどーすればいいんだろう