意地悪な両思い
「お疲れ様です。」
座ろうとする前に、彼に顔だけ覗かせてひょっこり挨拶。
「……お疲れ。」
笑われたばかりだというのに、またしてもそこで速水さんに笑われてしまった。
お疲れさま何回言ってんの?ってばかりにさ。
でもしょうがないじゃん。
お疲れ様です以外に挨拶見つかんなかったんだもん。
…たぶん緊張のせいで。
電話をその場で切ると、車内に進みいりドアを閉める。
静かな車内―――相変わらず中も整頓されていて、なにかと溜まりがちなジュースホルダーも運転手側しか埋まっていない。
綺麗好きな速水さんらしいといえば速水さんらしい。
「ごめん、待ったよな?仕事ちょっと長引いて。」
「いえ、大丈夫ですよ。」
彼は気にしてるけど、私的にそんなに待った感じはしていない。
現に本屋にいたのは15分ぐらいだし。
「ならよかったけど。」
速水さんはちらりと私を見つめる。
「疲れてない?」
「大丈夫ですよ。」
もういちいち優しんだから。
「じゃぁまぁでよっか。」
ここで話してるのもなんだし。
「はい。」
「スーパーとか寄らなくて大丈夫?夕飯とか。」
「昨日の残りもの食べるので。」
「そっか、ならいいかな。
ご飯食べに行ってもいいけど、月曜から疲れちゃあれだからね。」
速水さんは私の顔を見て口元を柔らかく緩める。
別に私は食べに行ってもいんだけどな、速水さんとなら。
全然疲れないし、むしろ……回復できちゃう。
そう思っていたけど、言えなかったのはまだ付き合って浅いからなのかな。
よくわかんない。
速水さんはその間にエンジンをつけ、
「じゃぁ出るよ。」
と言ってハンドルを左に切る。
「お願いします。」
返事したときには、お店からこぼれる明かりも届かなくなって車の中は真っ暗闇だった。