意地悪な両思い

 車道に出てからも、どこかなれない会話の私たち。帰ったら何食べるんですかとか、今週もお仕事忙しそうですかとか。

って違うか。
おぼつかないのは私だけで、速水さんは終始余裕そう。

だって、

「会社で話しかけた時、なんであんなうろたえてたの?」
 そう意地悪そうに笑みを浮かべながら、私に尋ね返してくるぐらいだもん。


「う、うろたえてなんかないですよ!」

「ふーん。」
 オウム返しのように否定するしかできなかったあたり、彼にはばればれだろうけどね。それこそ何もかも。

「照れちゃって。」

「照れてないです。」

「はいはい。」
 速水さんはくすっと笑い声をあげる。

付き合ってからも速水さんってば意地悪なんだから。


「でも、悪いのは速水さんですよ。」

「ん?」
 前の車のブレーキランプが赤く光り、速水さんも同じようにゆっくりブレーキをかけていった。

「あんな目立つところで話しかけてきて……。」

「やっぱりうろたえてたんだ。」

「も!」
 またそういうこと言う!

「……速水さんは、別に隠す気とかないんですか?」

「市田と付き合ってること?」
 信号機のかすかな明かりのおかげで彼と目が合う、同時にこくんと私は頷いた。

「まー……、そんなに気にしてはないかな。」

「そうですか。」

「うん。」
 次第に信号が青になる。

「市田は?」

「私は……」
 一瞬ためらって、絞り出すように本音を口にした。

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