意地悪な両思い
そのまま聞けないままかと思われたその答えだったが、間接的に、私は木野さんの口から知ることになる。
木野さんとふたりきりという気まずさから、とりあえず顔を合わせて笑って見せた私に
「市田さんはもう挨拶されました?」
まるで待っていたかのように彼女は問いかけてきた。
「えっと……誰に?」
「え?もしかして知らなぁい?」
わざとらしく、人差し指を口元にあてて小首をかしげる。
「聞いてません?
一色さんっていう本社からの短期出張の方。
今日からなんですけど。」
「あ、あぁ!」
どうやら、さっきまで速水さんと木野さんが話してた“あいつ”というのは、一色さんのことだったらしい。
私には関係がない話だと思って、右から左に受け流していた会話だったが、そうなれば話はちょっと別だ。
機会があれば話してみたかったりもしてるから。
「聞いてます。
木野さんが着いていらっしゃるんですよね?」
どんな方ですか?」
やっぱり速水さんと長嶋さんの同期だから、仕事もできて人格も良い方なのかな。そんでもって容姿まで完璧とか。
私はちらりとブラインド越しに見ようとする。
あれ、でも……それだけハイスペックそうなら、木野さんがこんなところで大人しくしているはずはないし……
それに長嶋さんといま話してるっていってたけど―――
「市田さんまだ見てないんですか?」
「あ、はい。
さっきまで打ち合わせで外に出てて。」
「あぁそういうこと。」
納得した表情で、木野さんは手で小槌を打つ。
「まぁ、あるイミ驚くんじゃない?」
ここから見えるよと手招きした彼女の傍に私は寄って見せた。
透けた扉の奥にぎりぎり見える、
長嶋さんと速水さんともう一人の姿。
ふたりよりもわずかに低いけど、
負けず劣らずその背はすらーっと伸びてて、ここからでもわかる高身長具合。
肩より少し下まで伸びた黒髪と、
ちらちら見えるその横顔は透き通る白い肌で……
って、え?
「女のひと!?」