意地悪な両思い
「お、お疲れ様です!」
「お疲れさま。」
頭をあげると、速水さん、長嶋さん、一色さん―――うぅなんかこうも上の人が
揃いにそろわれると、いくら速水さんと長嶋さんだからって緊張しないわけないな…。
なぜだか私は自分の左手を軽くつねる。
「市田紹介するよ、俺たちの同期の一色。
一色、俺の部下の市田だ。」
そう言った長嶋さんに彼女は一度視線をやると、一歩前にでて私に右手を差し出した。
「はじめまして。
一色 司です。
長嶋からよく話は伺ってます。頑張り屋な子だって。」
にこっと首を傾けた彼女。
近くで見たほうがきれいだった。
サラサラな肩までの黒髪。
瞳は少しアイラインが跳ね気味で、唇は反対に落ち着いたワインカラー。
黒いジャケットにインナーはシンプルに白。
決して大きい声を出されているわけじゃないんだけど、通る声っていうのかな、聞いてて落ち着く声色だった。
「あ、市田みのりと申します。
長嶋さんにはいつも助けていただくばかりで。
宜しくお願い致します。」
そう言って差し出す自分の手は、何もしていないむしろ不揃いな爪が並ぶずぼらな手で。
トップコートがきれいに塗られてる、ワントーン明るい彼女の手に並ぶのが恥ずかしかった。
「まぁ1か月しかいないし、同じ部署じゃないからあんまり絡むことないかもなんだけど。」
「そうですね。」
私たちは互いに眉を下げながら苦笑いを浮かべる。
「一色こわいから、無理に絡むことないよ」
そんな風な冗談を言ったのは、長嶋さんじゃなくて速水さんだった。
「なんですって?」
じろりと軽く睨んでみせる彼女の反応を、軽く楽しむ彼。
「冗談冗談」
「ったく。」
速水さんの肩を軽くパンチしてみせる様子は、聞かなくても仲がよかったことが伝わってくる。
相変わらず似たような性格してんだから
ふたりの間に割って入る長嶋さんはそういいながらも、どこか楽しそう。
三人でこんな感じで入社のころからやってたんだろうな。