意地悪な両思い

「あんまり公にはしたくないかなぁ、って。」

 社内恋愛は禁止されていないし、
速水さんと付き合ってることが恥ずかしいとかそういう理由じゃ決してなくて。


ただ、職場の人に気を遣わせてしまうかもしれないし、
ただ速水さんも仕事しづらくなっちゃうかもしれないし―――なんて、思ってること全部が全部言えたらどんなに楽だろう。


「速水さん誤解しないでくださいね!」
 そんな変な理由じゃなくて、


「なら内緒にしとこうか。」


「え?」
 思わず呆気にとられる。

それは速水さんも同じようで、 

「え?いや、公言したくないんでしょ?」
 俺間違ってる?と尋ねてくる彼。

「うん、そうなんだけど。そうなんだけどね。
……でもいんですか?」
 まだ理由だってまともに伝えてれていないのに。

「なんでダメなの?」
 懸念する私とは裏腹に、横から口元をふっと緩める音がかすかに聞こえてくる。

「ちゃんと分かってるから大丈夫だよ。」

「え?」

「市田がぶきっちょさんって今に知ったことじゃないし。」

「あ、それは……うん。」
 否定できないけど。

また助けられちゃったな、速水さんに。
意地悪なくせに、こういうところすっごく優しんだよね。


ちらっと彼の横顔を盗み見る。

それに暗いからよく見えないけど、私思ってるんだ。
視線をよこしてくれる度。

優しい目で見てくれてるんだろなって。

ありがとう、速水さん。


「まぁでもあれだよね。」

「な、何ですか?」
 照れくさいながらもまた彼に視線をあわす。


「みんなに秘密ってのも、なんか燃えるね。」
 横からこぼれてきた鼻で笑った声。


……やっぱり今言った、助けられてるっての撤回していいかな?

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