意地悪な両思い


 そして、金曜日が来た。

「市田、準備できたか?」

「あ、はい!今すぐ。」
 帰る支度を手早く済ませ、既に階段へと向かっている長嶋さんの後をあわてて追いかける。

「もう先に速水と一色と内川、行ってるらしいから。」
 頷く私に、今日は焼肉だぞ~と頬を綻ばせて見せた。


 お店は会社から歩いて10分ぐらいのところだった。
長嶋さんが予約してくれたらしい、最近できた所みたいで、気になってたんだって。

お店の看板にはグレーの牛の形だけが背景にプリントしてあって、達筆な文字で店名が書かれてた。外見は全体的に、何もペイントされていない木目調な感じ。

表向きだけ見れば、ちょっとかしこまったお店かなと思ったけど、店内に入るとそうでもなかった。

店員さんも店名がプリントされたTシャツに身をつつみ、全体的に大学生に見える若者が中心だ。中も明るく、6人席、4人席が開けたところに何個か並んでる中、奥に個室がいくつかあるような感じ。場合によっては貸し切りなどもできるらしい。


 案内された個室に入ると、速水さんたちが注文だけ済ませてくれていた。

「ある程度は頼んだけど。」

「じゃぁあとから足りなかったら、追加するか。」
 長嶋さんの問いかけにみんな頷く。

 席は掘りごたつみたいになってて、奥に速水さん、その向かいに一色さん、その横に内川くんが座ってた。長嶋さんの案内で、私は速水さんの左隣に座る。長嶋さんは私の横だ。


 運ばれてきたビール4つと、レモンサワー(速水さんが選んでくれたらしい)

「一色さんジョッキでかくないですか?」
 一人だけ特大サイズにびっくりした私は思わずそう言ってしまった。

「市田さんにもばれちゃったー、私お酒好きなの。」
 笑いながら、みんなで乾杯する。

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