意地悪な両思い
「美味しい?」
彼の問いかけに素直に頷く。
「どんなクールな女性なのかなって思ってた?」
そこで速水さんはそんな風に一色さんのことを聞いてきた。
聞こえちゃうよと一瞬焦ったけど、まだ長嶋さんと彼女は言い争い中。
こっちのことなんてなんのそのだ。
「あ、うん。正直ね。」
はじめて会社で挨拶したときは、もっとクールだったから。
隙がない方なのかなって思ってたけど。
今すこし話しただけでも分かる、これお姉さん感っていうのかなぁ。
なんか同じ部署の、よく相談事しちゃう品川さんと似てるかも。
だけど品川さんよりも、もうちょっと一色さんの方が人間臭い感じ。感情を露わにする所とか。
「少なくとも木野さんよりは話しやすい。」
ぽろっと出た本音に、速水さんはハハハッと笑った。
でも、なんだろうこの違和感。
二人は前付き合ってたって木野さんに聞いたけど。
二人の様子を見てると、元カレ元カノって感じじゃない気がして。仮にそうだとしても、余程円満に別れなきゃこんな形にはならないよね。
速水さんに直接聞けばいんだろうけど、前付き合ってたっていう事実を確定的に知りたくない自分もいて。
「ちょっと速水、何一人で市田さん独占してんのよ。」
すると、いつの間にやら見ていた一色さんにそう突っ込まれてしまった。
思わずごふっとなってしまう私に、慌てる様子なく
「お前らがうるさいから。」
肉をトングでひっくり返す。
焼けていたらしく、ほら食えとばかりに一色さんの小皿にそれを入れた。
大人しく彼女は口にいれる。
「で、決着はついたのか?」
「もっちろん、私の勝ちよ。」
速水さんにブイさいんを作って見せる一色さん。
「嘘つけ。結局いつも行きつく、速水が三人の中で一番優秀ってところに落ち着いただろ。」
長嶋さんは内川くんに同意を求めながらビールを飲んだ。
「俺は器用なだけだ。」
短く言い放った彼に、二人とも少し不満気。