意地悪な両思い
ありがとう、いつも安心をくれて。
私もぎゅっと彼の手を握りかえす。
「なんか思い出話してくれませんか?」
そういって話題を変えたのは内川くんだった。
「速水先輩の新人のころの話とか僕聞きたいです。」
「速水の新人のころ~?」
長嶋さんは笑いながらしょうがないなって話し始める。
一色さんもそれ以上は追求せずに、「最近の速水も教えてよ」なんて輪に加わり始めた。
話し始めて、5分がたった―――――そろそろ手離そうかな。
ほら、何かの拍子にちらって見えて、ばれでもしたらやばいし。
私はそろーっと彼の手から抜け出そうとする。
でも、
「あっ。」
「ん?市田さんどうかした?」
「あ、いえなんでも。
一色さんに笑顔で答えながら、私はひそかに汗をかく。
やばい……速水さん、手、全然離してくれない!!!
抜け出そうとしたところで、ぎゅって握る手を強くする彼。
おまけに本人は
「市田、肉食べないの?」
なんて言ってくる始末。
今その右手を塞いでるのは速水さんじゃんか!なんて言えないから、
「ちょっと休憩中です、枝豆でも頂きますかね~」
なんて言って、左手で豆を頂く。
帰ったら絶対文句言ってやるー!
そう決意しながら、だけど私もわたしだ。
右手をまたぎゅっとしちゃってる。
速水さんが離してくれないのを言い訳に、もはや今は私の方が握る力は強い。
「私、ちょっとお手洗い行ってくるね。」
そこで一色さんは席を外した。
いま長嶋さんは、速水さんが新人のころは、上司に物凄く立てついてたって話をしてる。間違ってることは立場が上だろうが関係なしに、間違ってるって言ってたみたい。
その後もでるわでるわの速水さんの話。
「お前、いい加減にしてくれない?」
速水さんも若干呆れてる。
戻ってきた一色さんも間髪いれずに、
「それだけ新人のころからすごかったって話じゃない。」
そう言った。
「あ、僕もトイレに。」
「内川くん枝豆椅子に落とし過ぎだよ。」
「あ、すみません」
笑いながらかわりばんこに出て行く。
時計の針は10時半を回った。
内川くんが戻ってきたらそろそろお開きかな。