意地悪な両思い
「気にしてるの?」
木野さんのこと。
こんなふうに抱き寄せてくれるなんて、珍しいもの。
名前こそ口に出さなかったが、そのまま先に切り出したのは私だった。
「そりゃぁね。
いろいろ不安にさせたくなくて、言ってなかっただけなんだけど。
一色があんな風に場に話題として出すと思わなくて。
……本当やましいこととかないから。」
「うん。……うん。」
ぎゅっと私を抱きしめる腕に力がこもる。
「速水さんのこと信じてるから。」
そう言いながら安心させるようにぎゅっと抱き返した。言葉だけじゃなくて、体ぜんぶで嘘じゃないよ、大丈夫だからって伝わるように。
速水さんのこと、不安になることはあったとしても疑ったことなんてないもの。
「それに速水さん、手つないできてくれたしね。」
飲み会の時と同じように手を握って見せる。
「嬉しかったなぁ。」
「珍しいね、ばれるからダメって嫌がる市田ちゃんが。」
「それもそうだね、なんでだろう。」
顔を見合わせて私たちは笑う。
「また今度不安になることがあったらさ、」
「ん?」
「聞くね。」
そう言った私に、
「本当かよ?」
こつんと中指で小突きしてみせる彼。
「本当だもん!」
「えー?」
笑いながら、分かったわかったと私をたしなめる。
私はそのまま日曜日まで彼の家に泊まった。