意地悪な両思い

ピットホール


 月曜日になった。

「もう一緒に乗ってけばいいのに。」

「ばか。」
 私は笑いながら車のドアを閉める。手を振りながら、先に車で会社に向かった速水さんを見送った。

週末お泊りした日は、いつもこんな感じ。開店前の近くの本屋さんの駐車場で下してもらって、私はそこから歩いて会社へ。速水さんより10分くらい後に会社に着く計算だ。

念には念を込めて、いつも職場の人たちが出勤してくる時間帯より少し早めにそうしてる。


「おはよう……ございます。」
 今日はたまたま誰もいなかったから、そう言った私の挨拶は空振りに終わる。

「おはよう。」
 代わりに、速水さんが遠くから答えてくれた。営業部も速水さんの姿だけ。

「今日は会社まで一緒でもよかったね?」

「もう。」
 頬を膨らませる私に、ハハハっと笑い声をあげた。



 それから数分後、長嶋さんが出勤してこられる。

「おー市田、おはよう。
早いな。」 

「おはようございます。
今日、10時から打ち合わせですよね、私また同行してもいいですか?」

「おーいいけど。
もう10分ぐらいしたらでるぞ?先車まわしとくな。」

「はい!」
 軽く目で速水さんに合図して、私は会社をでた。

< 132 / 140 >

この作品をシェア

pagetop