意地悪な両思い
「ありがとう」
彼女は一口コーヒーを含む。手渡すときにお花の良い香りがして少しドキドキした。
「そういえば飲み会の時に思ったんだけど、市田さんってうちら営業部と仲良いの?」
「え?あぁ、もう聞いてるかもですけど
内川くんと私同期なんですよ。」
「あ、そうなんだ?」
こくこくと私は頷く。
「長嶋さんも速水さんと同期で仲良いから、それで一緒に飲ませていただくことが
時々あって。
長嶋さんとは結構仕事終わり飲むので。」
「そういうことね。
うーん…。
内川くんの方が幼く見えるな」
ぼそっと漏れた一言に思わず二人して笑った。
「そっか。
仕事は楽しい?」
「はい。
仕事が出来てるかどうかは別ですけど……楽しいです。
最近、いろいろ長嶋さんに任せていただくようになって。
もっと……できるようになりたいなぁって。」
ゆっくり紡いだ返事に、うんうんと嬉しそうに一色さんは頷いてくれた。
「長嶋もこの間の帰り道褒めてたよ。
すごい頑張り屋な娘なんだーって。」
「そんなこと。」
すかさず彼女は首を振る。
「もっと自信もって。
それで、いつか長嶋のこと助けてあげて。
私からしたら、長嶋は頼りないからさ。」
あ、これ怒られるから内緒ね。ふふふっと笑う一色さんに私もつられた。
「一色さんって1か月だけでしたっけ?」
「うん、そう。」
「何か…寂しいですね。
1か月ってすぐですよ。」
「ふふっ、市田さん可愛いね。
私もできるならもう少しいたいけど……、ここに来た理由があってね。」
「あー…お仕事ですもんね。」
木野さんも言ってたっけ。
1か月、それも一色さんクラスの人が来るなんて何か理由があるに違いないって。
「ねぇ市田さん。」
「はい。」
彼女はそこで、複雑そうな表情を見せる。
それが、これまで見てきたクールな一色さんらしくなくて。
申し訳なさそうに、悲しそうに、苦しそうに。
あとから思えばその理由は簡単に分かることだったのに、この時の私はそこまで気づけていなかった。
「速水のこともらっていい?」