意地悪な両思い

「え…………っと、それはどういう…」

「私が本部にいるのは知ってるよね。
実はもう一つ新しい営業所を作る話が出てて、私そこを任されることになったの。」

「あ。」

「速水にそこに来てほしいと思ってる。
うえも速水が望むなら良いって言ってくれてる。

まだ言ってないけど。」

「でも、どうして……」
 わたしにそれを。



「市田さん、速水と付き合ってるよね。」



「―――っ。」


「ごめん、この間の飲み会の時屈んだ隙にね、一瞬見えたの。」

「あ…」
 たぶん、座席の下で手を繋いでたのを…だよね。
一色さん私たちの目の前に座ってらしてたし。


「まぁ確信を持てたのはそのときだったけど。
ここに来た時から、本当はちょっと気づいてたから。」

「え?」
 その言葉にびっくりして聞き返す。

彼女も、「ほら、私と速水付き合いながいから。」

「知ってる人は一部だけど、大学から一緒なのよ。」
 そう教えてくれた。

「だから、速水って結構木野さんとか他の娘にはもっとそっけないのに。
あ、仕事中は別だけどね!

市田さんにだけ表情が柔らかいっていうかさ。


付き合い長いから………だから気づいちゃうのよ。」
 彼女はすっかりぬるくなってしまったコーヒーをそこで含んだ。


「その様子だと、誰にも言ってないのよね?
長嶋にも。」
 私はこくこくとうなずいた。

「まぁこんな狭い職場だとね。」


「ごめん、こんなふうに言っちゃうのは卑怯だよね。」

「いえそんな……」

「ただ、速水には来てほしいって思ってるから。」
 そこで初めて彼女は私の言葉を途中で遮った。

「誘いの話はさせてもらう。」

「あの、ちなみに新しい営業所って。」


「……あー…」
 眉間にしわを寄せながら、言いにくそうに答える一色さん。

「そこって…」

「うん、新幹線でこっから2時間ってとこかな。」


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