意地悪な両思い

「まぁでも市田さんと付き合ってるなら。
たぶん速水断るだろうな。」
 苦笑いしながら私に目線をやる。

すこし考えて

「私は関係ないです。
速水さんがやってみたいかどうかですから…。」

「うん、そうだね。」

「はい。」
 そう頷きながら、

自分で言ったはずなのに”私は関係ない"その言葉が凄く重たい。


二人して沈黙の時が何秒か続いた。



 沈黙を破ったのは、私でもなく、彼女でもなく

コンコン―――

「あ、いた。すげー探した。」

「あっ。」
 速水さん。

なんてタイミングなんだって思った。
わたしはまだ、彼の前で上手な顔を作る練習ができてない。

「ごめん、市田さんと話してた。」
 ただ一色さんは違う。
私と同じように顔を暗くしてたってのに、すっかり切り替えていつもの姿。

さすがの速水さんも、この様子じゃ疑う理由が見つからないよね。


「お前なー。デスクいろって言ったろ。」
 呆れ口調で、壁に手をついて寄り掛かる。
先ほどまで営業で外にでていたせいか乱れている髪の毛を、手癖で直した。

「そんな探してないでしょ、わざとらしいのよ。」
 無視して一色さんはしわを伸ばせとばかりに、速水さんの眉間を人差し指で軽く押す。

それに深い意味はないと分かっていても、何となく私は目をそむけてしまった。


「本部から電話。」

「え?」

「急いでる風だったから。」

「あ、そう。」
 彼女は人差し指で軽く髪をかいて、ゴミ箱にさっきまで飲んでいたコーヒーのコップを投げ捨てた。

「じゃぁ市田さん、また。」

「あ、はい。」
 手をあげて出て行こうとする彼女に返事する。

「あ、さっきの……。」
 慌てて振り返った一色さんに

「大丈夫です。」
 言わないですから。口には出さなかったけど、アイコンタクトできっと伝わったはずだ。

一色さんが言われるまで、速水さんには黙ってますって。


「あんたも早く来てよ。
聞きたいこと溜まってるんだから。」

「はいはい。」
 まだ何か言いたそうな彼女を無視して、速水さんは追い出すみたいに扉を無理やりしめた。

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