意地悪な両思い
騒がしかった給湯室が、嘘みたいに静かになる。
「あー疲れた。」
先に口を開いたのは彼の方。
「俺にも頂戴。」
人差し指でさす、私の手の中に埋まってるコーヒー。
「あ、はい。」
慌ててつごうとする私に
「敬語?」
面白そうに反応を伺うようにして顔を覗き込んでくる。
「…すぐからかうんだから。」
「ごめんごめん。その顔好きだから。」
思わず肩のあたりを軽くたたいてしまった。
「なに喋ってたの?」
「え?」
そこで急に速水さんは聞いてきた。
「そんな喋ることあるかなーと思って。」
「んー?
あー、えーっと、この間の飲み会のお礼をね。」
私は誤魔化すようにコーヒーを手渡した。
「ふーん……
言ってくれないんだ。」
「え?何、聞こえなかったんだけど。」
「や、何でもない。」
コーヒー美味しいね。ありがとうと言って彼はにこりと笑う。
「今から昼休憩?」
「うん。」
「あー、朝長嶋についていってたからか。
疲れたろ。」
「そうでもないよ。大丈夫。」
自分のは飲んじゃってたから、もう一杯つぎなおした。
「速水さんは?疲れた?」
「や、大丈夫。」
「そう?」
まだ髪の毛乱れてるよ。
私は笑いながら、一部明後日を向いていた前髪を手で直してあげた。
するとその手をパッと彼は掴んで、じっと私の顔を見つめてくる。
前髪が若干目にかかって、髪の隙間から私をまっすぐみてて
「…なに?」
恥ずかしくて誤魔化すように言ったそれを
「べつに。」
あっさり交わしてみせる速水さん。
本当のこというと、まだ真っすぐ彼の顔を見るのに慣れてない。
だって、速水さん格好いいんだもん。
間近で見て照れないはずがない。
まだ彼は私を真っすぐ見てる。
「どしたの?」
何か様子おかしくない?
もう一度聞く私に、速水さんは目線を一度下にそらせて
「俺って頼りない?」
「え?」
「ごめん、いまの忘れて。」
「あっ。」
私のおでこにそれを落とす。
「じゃぁ戻る。」
「あ、うん。」
速水さんは私の髪を軽く撫でてて給湯室から出て行った。