意地悪な両思い
その後はデートの話から一旦離れ、ただの世間話を私たちは2、3交わす。
話に夢中になっていた私は気が付かなかったが、家まであと5分の距離にまで車はいつの間にか進んでいたらしい、
「もうすぐ着くよ。」
と教えてくれた彼にちょぴり驚いてしまった。
「あっという間だった?」
「はい、もうこんなところ……」
丁度よく通り過ぎていったちんけなバス停は、いつも降りる停留所。
変なの。
今日だってあそこで降りて、私は一人帰り道を歩いてくはずだったのに。
今は、速水さんがいるんだよなぁ。
「…速水さん。」
「ん?」
「しつこいかもですけど本当よかったんですか?」
赤く灯っている信号を真っすぐ見つめる彼の横顔を恐る恐る覗く。
「私送ってったら、帰るの遅くなっちゃうから……」
「うん、市田。
本当しつこい。」
「うっ。」
そ、そんなきっぱり言わなくたって、、
ぴしゃりと言い放たれた一言に面をくらう。
でも本当のことなんだけどなぁ、速水さんが疲れてるのは。
私とは比べ物になんないぐらい責任ある仕事だってしているわけだし……
おずおずと彼を盗み見る。
ところがそこで視線がぶつかってしまって。
「ばか。」
「いて。」
まだ考えてるだろと、お得意の右手中指で私の頭を小突く。
「俺が好きで送ってるんだから気にすんな。」
辛気臭い顔をしていた私の顔が気にくわなかったみたい。
「ほらまだむくれっ面。」
今度はくしゃくしゃーっとそのまま髪をなで繰り回してくる。
いくら後ろに髪を一つに結っているとはいえ、さすがにそのままを維持することはできない。おかげで前髪をメインとして随分と乱れてしまった。
「くしゃくしゃだ。」
そんな様子を見てハハハッと彼が笑う。
「速水さんがしたんでしょう!」
「はいはい。」
ぶーと口を尖らせた私を見て、優しくまた彼は微笑んだ。
速水さんにもおみまいしようかな。
そう思ったが、信号が青になってしまったので断念するしかない。
まぁでも逆に青になってくれて、良かったのかもしんないな。
速水さんの髪触るの、なんか、緊張しちゃうし……。