意地悪な両思い
「じゃぁそれ確認したかっただけだから。」
それから2分ほど経ったところで、彼らの会話に区切りがつく。
私も別段そこにいる必要はないのに、たまにお茶を飲みながらすぐに終わるだろうと何となしにその場へとどまっていた。
「市田はこれから昼?」
「あぁ、はい。これからごはんです。」
気を利かせてくれたのか、速水さんが私に話題を振ってくれる。
何気ない会話なのに、内川くんがいるのもあってか余計緊張した。
「内川も昼とるだろ?」
「いえ、俺まだ仕事残ってるんでそれやってから取ろうかなって。」
「今日任せたの急のじゃないから、昼気にせずとれよ。」
「ありがとうございます。」
内川くんはそう言ったけれど、仕事をしてからお昼取るのだと私は思ってる。だって彼、真っすぐな性格だからね。
「では市田さん、俺ら戻りますね。」
「はい。」
お疲れ様ですと二人に頭を下げる。
速水さん、明日大丈夫かな。
お仕事大変そうだけど……
「速水先輩、俺も伺いたいこと一つあって……」
おまけに踵を返してすぐ、内川くんからそうまた相談を持ち掛けられているし。
私みたいに妄想にふける時間もなさそう。
って当然か、お仕事中なんだから。
私はぼーっとそのまま、藍色のスーツの背の一点を見えなくなるまで見つめ続けた。
と、すると、廊下へと切り替えるタイミングで、後ろ背のスーツに何本かのしわが急に刻まれる。
次に右目じりの涙ぼくろが私を捕らえて、
「あ・し・た」
たったそれだけ。
音を立てずにその人は去り際口を動かした。
隣にいる内川くんにもちろん見えないように。
「言い逃げですか。」
誰もいないのをいいことに、ぽつんと私は気持ちをつぶやく。
言い逃げかい。
今度は心内で私はつぶやく。
……新しい化粧品、帰りに買いに行っちゃおうかな。
心臓をばたつかせながら、私はごくんとまた一口お茶を飲んだ。