意地悪な両思い
そんな私に気づかずに、速水さんはシフトレバーをパーキングからドライブへ切り替えた。そして、私のアパートがある小道から大通りへと車を進めていく。
「こっから映画までどんぐらいかかるか分かる?」
大通りに繰り出してすぐの所で彼が口を開いた。
「うーん、30分…いや45分?」
いっつも映画を見に行くときは、電車で行くからよく分からない。
「映画の上映時間とか何時ですか?」
速水さんが調べるって携帯で連絡くれたから、諸々全部任せっきりなんだよね。
たぶん、11時台の上映の奴を見るようにしているのだろうけど。
「11時45分。」
うん、やっぱり11時台のだった。
それにしたって、映画を見始めるのがその時間として、たぶん長くても2時間半ぐらいで映画終わっちゃうよね?
そうしたら14時ぐらいでしょ、
それからどうするんだろう、速水さん。
お昼をその後取るとしても、時間は結構あるし、買い物…とか?夕飯とかも、一緒に食べるのかな。
しまった、ちゃんと私もいろいろ考えてくるんだった。
洋服選びに気をとられ過ぎてたよ…!
じろっと私は何となくそう思った流れで自分の服を見返す―――わざわざこの日のために服買ってよかった。
服着てるだけで十分なのに、速水さん私服おしゃれなんだもん。下手な服だと横に並ぶのでさえ後ろめたく感じちゃうかも。
さりげなく運転している彼の横顔を私は見つめる。
白の春ニット、黒のアンクルパンツ。
茶色のクラッチバック。
あと……
「なんで速水さん、眼鏡かけてるんですか。」
「え?」
ツンと私は彼のそれの端の方を人差し指でつついて見せた。
「あぁ、言ってなかったっけ?
俺、目悪いんだよちょっとだけ。」
速水さんはズレを直すように眼鏡に手を軽くそえる。
「言ってないですよ。」
「ごめんごめん。」
から笑いを彼は浮かべる。
目の前の信号も赤になり、丁度車もそこで止まった。
「市田は視力良いの?」
「悪くはないですね。」
伊達めがねなら1個持ってるけど。
確か、めがねにいっとき憧れて買ったんだっけや。
「眼鏡すき?」
「へ?」
めがね?
「どっちが好きなのかなって。
コンタクトとめがね。」
速水さんはじろっと私に視線を合わせる。
「そ、そんなこと…」
言われたって、困っちゃうよ。
両方、だって似合ってんだもん、速水さん――。